愛を欲しがる優しい獣


「あの……用って?」

「あれ」

俺は塞がっていた廊下の向こうにある資料室の扉を指差した。

これでようやく仕事に取り掛かれるとホッとする。

「助けたのはついでみたいなものだよ。絡まれていたみたいだったから。もしかしてお邪魔だった?」

「いいえ!どうもありがとうございました」

関谷さんの手は小さく震えていた。

俺が廊下にやって来たのは10分ほど前だったが、もしかしたらもっと長い時間拘束されていたのかもしれない。

もっと早く助けてあげれば良かった思うと同時に、関谷さんに対する同情の念を禁じ得ない。

「大変だね、美人だと」

……軽い冗談のつもりだった。

悪意があったわけではないことをこの場で神に誓っても良い。

俺は軽口を言ったことを激しく後悔した。

「好きでこんな容姿に生まれたわけじゃありません」

……関谷さんがぽろぽろと涙を零して訴えたからだ。