「……媚び売るなら亜由姉さんに売れば良いのに」
……勝利に酔っていたとしても、皮肉屋は相変わらずである。
「甘いね、櫂くん。佐藤さんは相手にもしてくれないよ」
あの人を嘗めてはいけない。日頃、俺がどれだけ苦労していることか。一つ一つ数え上げたいぐらいだ。
「ふーん……」
「櫂くん、もしかして照れてるの?」
「……うるさい」
俺は頬を僅かに染めた櫂くんの頭を撫でまわしてやりたい衝動に駆られた。
樹くんと早苗ちゃんがからかいたくなる気持ちもわかる。
大人顔負けの皮肉屋の顔に、少年のような純粋な心を持つアンバランスさが、たまらなくむずがゆい。
「帰りにおやつでも買って帰ろうか。あんなに走ったら、お腹空いたでしょう」
「鈴木の奢りだからな」
……その帰り道、俺は櫂くんをからかった代償として、たんまり貢ぐことになるのだった。



