愛を欲しがる優しい獣


「見えた?」

「見えた」

「櫂くんが毎日ランニングしているのは、こうやって試合で一生懸命走るためなんだよ」

エースナンバーを背負った櫂くんはひたむきにボールを追いかけていた。

こんなに寒いのに全身に汗を掻いて、砂埃にまみれた姿を誇らしく思う。

(櫂くんが羨ましいな……)

自分が中学生だった頃のことを思い出すとなおさらだった。

ひたすらに人の顔色を窺い続けた3年間をなかったことには出来ないし、取り戻すことだって出来ない。

「ちょっとは応援する気になった?」

「わかったよ」

渋々承知した陽くんをメンバーに加えて。

俺達は保護者の集団に負けじと即席の応援団を結成したのだった。