「あなたは貴士さんがどうして家を出たのかご存知ですか?」
私は一拍おいてから答えた。
「……いいえ」
家を出た理由を鈴木くんから聞いたことはなかった。一緒に居ても知らないことなど山ほどあるのだと言いたいのだろうか。
私の答えは想定の範囲内だったのであろう。彼女は親切なことに、私の知らない鈴木くんの秘密をひとつ教えてくれた。
「勘当されたんですよ、鈴木氏に」
(……勘……当?)
またしても思わぬ事実に遭遇して動揺している間に、小林さんが話を畳みかける。
「私は貴士さんこそ政治家に相応しいと思っております。目的のためなら手段を選ばない貪欲さ。不要なものも切り捨てる冷酷さ。どちらも兼ね備えている彼には政治家の素質があると思いませんか?」
顔に張り付けたような微笑みは、だから協力しろと暗に示していた。



