(わかりました、と……)

承知した旨をメールに打ち込んでいると、ふいに風が吹いてきて辺りの埃や塵と一緒に髪を巻き上げていった。

その勢いに思わず目を瞑る。

「あ!」

風に気を取られている隙に首に巻いていたストールがするりと解けて、飛ばされていってしまった。

(お気に入りなのに!)

ふわりに空に浮かぶストールを見上げながら、走って追いかける。ストールは走る私を嘲笑うかのように、どんどん距離を引き離していく。

追いついたと思った時には、既に通行人の女性に拾われていた。

「ありがとうございます!」

「どういたしまして」

女性は地面に落ちたストールの埃を払うと、私に向かって差し出した。

その顔に見覚えがあった。

「この間の……」

「少しお話ししてもよろしいですか?」

鈴木くんのお父様の秘書さんはルージュを引いた唇の端を上げてにっこりと微笑んだ。