「今日は何しに来たの?あの人の指図?」
「いいえ。私の判断で参りました。次の選挙の票の集まり具合が思わしくないのです」
「ふーん。そう、それは大変だね」
小林さんが自らここに足を運ぶくらいだ。相当、苦戦を強いられているのだろう。
彼女は真摯に頭を下げた。
「どうか家にお戻りください」
俺は即答した。
「嫌だね」
少しくらい苦労した方が、その後の政治活動に張り合いがあって良いんじゃないだろうかと思うのは、愚息なりの思いやりの精神である。
あくまで他人事のような態度で話していると、小林さんは腹に据えかねたようで語気を荒げた。
「先生がどうなっても構わないとおっしゃるのですか?」
「大体、俺が戻って手伝ったところで落選は避けられないんじゃないの?」
落選を防ぐ苦肉の策として俺を担ぎ出そうとしているのなら、それはやり方が間違っている。家を離れた俺は一介のサラリーマンに過ぎない。ただのサラリーマンに何ができると言うのだ。後援会の年寄り連中の機嫌を取るくらいが関の山だろう。



