愛を欲しがる優しい獣


佐藤さんの姿が見えなくなると同時に、小林さんは口を開いた。

「先ほどの女性はどなたですか?」

「答える義務はないでしょう」

単なる好奇心で聞いている訳ではないことは明白だった。

(何で政治家の息子に生まれてしまったんだろう……)

俺に関わる人間をいちいち調べて、どうするつもりなのかと問い詰めたくなる。

どうせ、真っ当な使い方などしないのだろうが。

気を張って洋服を選んだのが裏目に出てしまった。いつもの格好なら他人の空似でやり過ごせたものを。

「結婚したんだね。おめでとう。小林と呼ぶのは控えたほうが良いかな」

「ありがとうございます。仕事では旧姓を使用しておりますので、そのままで結構です」

指輪はまだ光り輝いていて、贈られてから間もないことが窺えた。

結婚後も仕事を続ける女性は素晴らしいと思うが、この場合はありがたくない。