愛を欲しがる優しい獣


俺の住んでいるマンションは駅から佐藤家に行く途中にある。立地と住居設備に恵まれているせいか、空きはほとんどなく常に満室であった。エントランスは忙しなく住人が行きかっている。

「5分ぐらいで戻って来るから、ここで待っていてもらって良い?」

「うん」

来客用に用意されているソファに佐藤さんを座らせて、大理石の床に買ってきた荷物を置く。

(ついでに着替えてこよう)

佐藤さんと出掛けるからと張り切ってきって準備したが、もう窮屈すぎて限界だった。

「ところで、これどうやって家の中に運ぶつもり?」

トイストアの買い物袋を持ったまま家に入ったら、誕生日プレゼントを買いに行ったことがばれてしまう。

ひろむくんに見つからずにリビングをすり抜けて、家の中に運び入れるのは至難の技だ。

「櫂にひろむをお風呂に入れるように頼んであるのよ」

「そうか」

その手があったかと、佐藤さんの機転に感心する。

そう。

……俺は佐藤さんのことに気を取られていて、背後に忍び寄る人物に気が付かなかったのだ。