「我が家の鍋奉行が仕切る鍋は美味しいわよ」
佐藤さんがふふんと自慢げに言った。佐藤さんも認める鍋奉行が振る舞う鍋ならぜひとも味わってみたい。
「鍋奉行って誰なの?」
「早苗よ」
早苗ちゃんの名前を聞いて、急に思い出した。
(あ、そうだった……)
この間、早苗ちゃんに小説を貸す約束をしていたのだ。流行りの作家の新刊で、次に佐藤家に行くときに持っていくと言ったばかりであった。
「ごめん、ちょっと部屋に寄って行って良い?」
「良いわよ」
本を楽しみにしていた早苗ちゃんに忘れたなんて言ったら、激しく怒られそうだった。



