社長は最後に、疑いの目を向けられた不運な社員に労いの言葉を掛けた。
「疑って済まなかったね。これからも業務に励んでくれ。君の評判は私の耳にもしっかり届いているからね」
「ありがとうございます」
俺は頭を下げて、その場を辞した。
廊下に出ると直ぐに内ポケットに入れておいた退職願いをビリビリと破いてゴミ箱に捨てた。
(終わったな……)
はらはらと舞う白黒の紙吹雪をしみじみと眺めていると、ふいにとんとんと肩を叩かれる。
振り返ってみると、会議室にいるはずの監査部長が立っていてぎょっとした。
「総務部の佐藤さんに礼を言っておくと良い」
監査部長は缶コーヒーを俺に渡しながら言った。
「君が木下課長から電話で出張取り消しの指示を受けた時のことを証言しても良いと申し出たんだよ、彼女」
……寝耳に水の話だった。



