横領事件の発覚で、ただでさえピリピリとしているのに余計な刺激を与えない方が良い。
監査部長は他言無用と念を押すと、重々しく口を開いた。
「実は課長が不正に請求した出張精算書の中に君の名前があった」
俺は思わず息を呑んだ。
監査部長の告げた日付は課長と出張に行くことになっていた日だったからだ。
結局、出張は中止になって佐藤さん達と映画を見に行ったわけだが……。
もしかして、同じような手口で他の日も俺の名前を勝手に使っていたのだろうか。
だとしたらその回数は1回や2回ではきかないはずだ。ここ数か月で直前になって取りやめになった出張は片手では収まりきらない。
「君は木下課長のカラ出張のことをどこまで知っていたのかな」
監査部長の問いかけで俺はようやく、自分が呼び出された理由を悟った。



