「もう聞かない」

「しても良いならするよ?」

「からかわないでよ」

俺はドライヤーのスイッチをとめて、櫛と一緒にベッドの脇に置いた。

彼女の身体を無理やり押し倒して、細い手首をベッドに抑えつける。

佐藤さんが息を呑むのが分かった。

「覚えておいて。俺って佐藤さんが考えているほど紳士じゃないから」

容易い挑発に乗ってしまうくらい余裕がないことを彼女は知らない。

獰猛な獣はいつだって牙を研いでいて、食らいつくのを待っている。

「俺には佐藤さんが必要だから、早く俺のことを好きになって」

そうでないと無理やりでも良いからと理性を忘れて、何もかも奪い去ってしまいたくなる。

「帰ろうか」

俺は佐藤さんを放すとおもむろにルームウェアを脱ぎ始めた。

雨音は大分小さくなっていた。この調子なら、雨は直に止むだろう。

佐藤さんは何か言いたげにしていたが、やがて俺に習っておずおずと着替え始めたのだった。