私は鈴木くんの気遣いを素直に受け取ることにした。

帰宅する鈴木くんを玄関で見送る。

「ごめんね。慌ただしくって」

(何もこんな日に帰ってこなくて良いのに……)

タイミングが悪い時に帰って来るのもお母さんらしいと言えばそれまでだが。

「佐藤さんってお母さん似だったんだね」

「そうなの。嫌になっちゃうわ」

あのとぼけた人の娘に生まれたことが悲劇の始まりだった。

変わり者と近所でも評判の母親のおかげで、こちらは子供の頃から無用な苦労ばかりしてきたのだ。愚痴のひとつも言ってやりたくなる。

「楽しいお母さんだね」

鈴木くんはそう言うと、頬に優しくキスをした。

「また、来るよ」

「うん」

交わされる次の約束に顔が綻んでいく。

……まるで、夢みたいだ。

こんなに臆病な私でも良いって言ってくれる人がいるなんて。