「早苗ちゃん?急にどうしたの?」 <今すぐ来い> 「え?今から?」 時計を見れば、既に夜の10時を回っている。この時間に伺うのは普通なら遠慮するところだ。 <来ないと二度と家の敷居を跨がせないから> 早苗ちゃんはドスのきいた声で言い捨てると通話を一方的に終了させた。 「今すぐ来いって」 携帯電話を片手で握りしめてそう言えば、2人とも、聞こえていたと顔で訴えていた。 「行ってらっしゃい」 仁志さんはいかにも楽しげに俺の鞄を投げて寄越した。