晴れた日に…

私はすぐに電話をした。

「はい」

あの人だった。間違いない。
「棚部紗江です」

わたしが名乗ると、彼の声が上ずった。

「俺のこと。わかりますか?ケルンの広場で…」

忘れるはずがない。
わからないはずがない。

私は平静を装って言った。

「わかるわ。テレビに映ってるもの。有名な方だったのね。」
「大丈夫ですか?」
「大丈夫。夫も昨日まで仕事をセーブしてくれてたし、エーベルトも暴露たくないって、言ってるわ。」
「そう。よかった。」

なんだか、電話での彼はあの時の彼とは別人かのようで、緊張してるかに思えた。
「…会いたい」

彼はつぶやいた。

「え…?」


私は耳を疑った。

メモに書いてあった通りのことでも、
改めて言われると驚き、
そして、思っていたニュアンスと違う。

私は警戒していたのだ。
彼は全てを知っている。
エーベルトが悪いとはいえ、私は警察にも行っていない。
エーベルトを怪我させたことを黙っていたら罪になるのではないかとずっと怯えていた。
実際、弁護士の夫にも怪我の程度から考えるとまずいことになると言われている。

「会いたいんだ…。あの日からあなたの姿が、頭から離れない。」

あんな、美しい男に、こんなことを言われている。
私の胸は高鳴り、夫のこともエーベルトのことも、忘れてしまいそうだった。

「いいわ。何処に行ったらいい?あなたはゲルゼンキルヒェンにいるんでしょ?」
「知ってたんだね。大丈夫。練習終わったらケルンに行くよ。飛ばしてく。何処かホテルとって。着いたら電話するから」