何とかそこを離れて、廊下を歩く。
白い床が真っ黒に見えてきた。私どっかおかしいのかも。


「梓?顔色悪いよ、どうかした?」

オフィスに戻った私を見つけて、愁也が声を掛けてきた。


この、無駄なイケメンが!!
あんたのせいで私は今日女子100人に嫌われたわ!!


「……何でもない」


ぷいっとそっぽを向けば、彼は私へと手を伸ばしてーーそれが止まった。
私の背後から近づいてくる、その人を見つけたからだろうか。


「あら、しゅ……天野チーフ」


半ば予想していた私の後ろから、あの涼しげな声がした。

振り返れば、やっぱり隙のない美人OL、三崎さん。

「こちらの書類をチェックして頂けますか?」

私に軽く会釈をして、三崎さんは愁也に近付く。
二人で並んで書類を覗き込むようにしているから、その距離がものすっごく近い。ちょっと横向いたら、キスできちゃうんじゃないだろうか。


つうか、さっき、
『愁也』って呼びかけようとしてたよね。


私の目の前で、やっと書類から目を上げた二人は微笑み合う。


「はい、OKです。総務に回して」


彼女を見る愁也の目も何となく親しげで、


……『こいつら、デキてる』感たっぷりだ。