「なんで……?」

私ですらもうずっと来てなくて、忘れかけてたような場所なのに。

「情報誌読めって言ってたじゃん……」

「あれはただ、アンタの好みの市場調査。まあ最初は普通に式場を探してたんだけどな?」

かなり前に、愁也は父にここを教えてもらっていたのだと言う。
……私の母に、挨拶するために。


「来てみてビックリ。まさか梓のお母さんのお墓がこんな外国映画みたいな場所だとはな。あのオッサン見かけによらずロマンチストだよな」

はは、と笑う愁也。
私はなんだか胸がいっぱいで、うまく笑えないよ。

「いつか梓と来ようと思ってたんだけど。……交渉したら結婚式やってもいいって言うから、超特急で準備しちゃったってわけ」


超特急っていつからだ。早いにも程がある。
言葉にならずに見つめたなら。

これがほんとに最後の内緒のプレゼントだと。
愁也は優しく笑う。

「馬鹿……」

口から出たのは可愛げもない言葉だったけど。
私は彼に微笑み返した。


二人で白い墓石の前に立つ。

『KAORI TAKAMIYA』

母の名前。

愁也が真っ白な薔薇を一輪、そこに置いた。
もう一つ、花束があるのは父だろう。
真っ直ぐにその名前を見つめて、愁也が口を開いた。


「梓を、産んでくれてありがとうございます。

梓に、出逢わせてくれてありがとうございます。


――俺が必ず、幸せにしますから」


深々と頭を下げる。

もう、涙が止まらない。



ねぇ、ママ?見てるかな。

結構イイ男を捕まえたでしょ?
俺様で、エロくて、たまに極悪で、ついにサプライズ好きも加算されたけど。

私の自慢の婚約者なんだよ。


……だいすきな、人なんだよ。