「梓」

彼も私を強く抱きしめ返した。

愁也。
愁也。

彼の腕の中で、何度も何度も名前を呼ぶ。

「逢いたかったよぉ……」

ボロボロと零れる涙は、拭っても拭っても、愁也の指を濡らす。

「俺もだよ。……無事で良かった」

熱を込めて囁く、彼の言葉。

「梓」

苦しそうに、私を抱きしめて呼ぶ、愁也。
その唇が何度も私に重ねられる。
透也の前だということも忘れて、私達はキスをし続けた。

いつかもこんな風に抱きついたっけ。

だけど今度はもっともっと、切実で、情熱的で、……何故か切なくなる。
どうして?

ああ、愁也が、私より苦しそうな顔をしてるからだ……。
その腕が、痛いほど私を強く抱き締めてるからだ。

その顔に、私は胸を締め付けられる。

どうして?


長い長いキスが、愁也の熱が、私を絡めとって。

やがて愁也が、苦しそうに息を吐いた。


「愁也?」


その瞳が、悲しげに揺れる。




「梓、ごめん。


婚約は、解消させて」





「え……?」




愁也の声だけが耳に響き、ガン、と頭を殴られたような衝撃と共に、目の前が真っ暗になった。


「な、に?」


暗闇の中で、愁也の顔だけが鮮明に見える。
どくん、どくん、と指先が心臓になったみたいに痛い。

「な、何言ってるの?」

私の声は震えてる。

愁也の瞳を見れば、冗談ではない事がわかるから。