「ヒサギちゃん」
俺の声色に何かを感じたのか、ヒサギちゃんはまた外方を向いてしまった。
「……悪かったな、巻き込んで」
ぽつりと放り出された小さな言葉。
謝られるなんて、これっぽっちも思っていなかった。
普段、綺麗なのに無表情か仏頂面でいる事の多いヒサギちゃん。
俺が話し掛けても適当な返事しかしてくれなかったり、無視する事の多いヒサギちゃん。
そんなヒサギちゃんが、俺に、謝った、とか……。
「や、別に、それは良いんだ。ただ──」
「お前の説教なんて聞きたくない」
不機嫌な表情と声色で、ヒサギちゃんは俺の言葉を遮った。
普段なら仕方なく引き下がるけど、今日はそういう訳にはいかない。
「説教じゃない。俺はヒサギちゃんに……!」
「煩ぇよ。さっき謝っただろ。今日のことはそれで終わり。それが嫌ならもう俺に付きまとうな」
「……っ、待って!」
ベンチから立ち上がるヒサギちゃんの手を引いて、俺はどうにか彼をその場に留めた。
ゲーセンの時とはまた少し感じが違うけれど、キツい視線が突き刺さる。
思わず手を離してしまいそうになったけど、このまま返しちゃいけない。
そんな思いが俺を動かしたんだ。


