「殴って痛いのは、手だけじゃなくて、心だって痛いよ」
だから、こんなことはしちゃいけないんだ。
俺は、心からそう思ってヒサギちゃんに告げた。
「誰かを殴るためじゃなくて、この手で何か別のことをしようよ」
手からヒサギちゃんに視線をあげると、ヒサギちゃんはハトが豆鉄砲を食ったよう、というか、とにかくそんな顔付きできょとんと俺を見ていた。
俺、変なこと言っただろうか。
そんな事を考えていると、ヒサギちゃんの表情はみるみるうちに曇って、俺から視線を逸らした。
「……俺だって、好きでケンカしてる訳じゃない」
拗ねたような、小さな声。
明らかに今までと違う雰囲気になぜかドクリと鼓動が跳ねる。
そんな俺の胸の内を知る由もないヒサギちゃんは、俯いて俺の手をぐっと握り返してきた──
「──痛っ!」
その力強さといったら!
「ごめん……」
「大丈夫! びっくりしただけだからっ!」
俺の一言がヒサギちゃんを傷付けてしまったような気がして……。
そろそろと逃げ出していったヒサギちゃんの手を捕まえて、両手でしっかりと包み込んだ。
思わず声をあげてしまうほど力強かったヒサギちゃんの手だけど、その左手は俺の手の中にすっぽりと収まってしまっている。
女の子の手みたいだと思ったことは口が裂けても言えない。


