「今までどんなことがあったか知らないけど、これからも今日みたいに気に入らない相手は殴り飛ばしていくつもり?」
「売られたら買うのが普通だろ」
「普通じゃない。それは間違ってる」
「殴られたら我慢して黙ってろって言うつもりか?」
「そうじゃない。そうならないようにしようよ」
俺のことを睨んでいたヒサギちゃんは、掴んだままだった俺の手を乱暴に振り解いた。
そのまま帰られてしまうかと思ったけど、どっかりとベンチに座って軽く脚を組む。
俺とヒサギちゃんとの間隔は、僅か数十センチ。
その距離が、俺とヒサギちゃんを隔てている何か、のように思えた。
どうしたら、その距離が縮むのか。
どうすれば、ヒサギちゃんに分かって貰えるのか。
「俺さ、今日初めて他人を思いきり殴ったよ。そんなことするつもり無かったから自分でもびっくりした。殴られれば痛いけど、殴っても痛いんだね」
「……だから何だよ」
「こういうのは、もう終わりにしようよ」
俺はまたヒサギちゃんの手を取って、握手するみたいに握り締めた。
どんなに綺麗な顔をしていてもやっぱり男だから、その手は少し骨張っていて、それでも俺なんかよりは全然細い。
華奢という言葉がそのまま当てはまる。


