「紗弥加に言っておかなければならないことがあるんだ」

「何言っておかなければいけないことって」

「実は昨日また拓海君がうちに来たんだ」

「拓海また来てくれたんだ」

(それだけあたしの事を想ってくれているってことなのかな?)

「それでどうしたの?」

「紗弥加が突然いなくなって未だに見つからないから心配になったんだろう、警察に捜索願を出すと言い出してな」

「そんなことされたら困るじゃない、どうしたのそれで」

 紗弥加が慌てるように言うと、孝之がさらに続ける。

「仕方ないから紗弥加が拓海君と別れたがっていることと居場所を知っていることだけを伝えた。ごめんな勝手なことをして」

「良いわよ別に、そういう事なら仕方ないもの。でもそこまであたしの事を心配してくれているってことでしょ? なんだかうれしいな」

「そうだぞ、紗弥加は彼にそこまで想ってもらえて幸せなんだ。それなのに別れてしまうなんて」

「その事はもういいじゃない。それより居場所を知っているって言って拓海は何か言わなかった?」

「必死に紗弥加がどこにいるのか聞いてきたよ」

「それでどうしたの?」

この時紗弥加は父を信用しているものの、万が一にでも父親が自分の居場所を拓海に伝えてしまっていないか、それだけが心配であった。