「どういうことですかそれ。嫌いになったわけじゃないなら別れる必要ないじゃないですか」

嫌いになったわけでもないのに別れるとは訳が分からず激しい口調で尋ねる拓海。

「それ以上は何も言えない」

「紗弥加は今どこにいるんですか」

「何も言えないと言ったろ、居場所も言えないんだ。だからもうここにも来ないでくれ」

「どうしてもですか?」

「どうしてもだ。悪いな」

「分かりました、ではもう諦めます。おじゃましました」

こうして拓海は肩を落としとぼとぼと奥山家を後にした。

 翌日、この日は孝之も香織とともに紗弥加の病院へと見舞いに向かった。

「こんにちは紗弥加、具合はどう?」

「いらっしゃいお母さん、今日はお父さんも来てくれたのね、いつもありがとう。具合は普通かな? いつも通りよ。ただ少しずつ抗がん剤の副作用が出始めているの」

「大丈夫なの?」

「大丈夫よこのくらい。もともと通院でも大丈夫って言っていたくらいだからそれほど強い副作用でもないんじゃないかな?」

「そうなのかな?」

「そうよきっと」

ここで孝之が昨日の出来事を紗弥加に告げる。