その週の土曜日、会社が休みの拓海は静岡の紗弥加の実家に向かった。

「ごめんください、五十嵐です」

その声に素知らぬ顔で出迎えたのは母親の香織ではなく父親の孝之であった。

「どうしたんだ突然」

「実は紗弥加が突然消えてしまいまして、こちらに帰ってはいませんか?」

拓海の尋ねる声に素知らぬ顔でとぼける孝之。

「どうしてこっちに帰っていると思ったんだね?」

「いろいろ探しまわったんですが、あとはこちらしか残っていないもので」

「残念だがうちにはいないよ。一体何があったんだ、ケンカでもしたのか?」

またも孝之は何も知らないそぶりで白々しく聞いてくる。

「いえ決してそんなことはないのですが突然ラインで別れを告げてきて僕も何が何だか、その後こちらから折り返し電話をかけたのですが別れるの一点張りで一方的に電話を切られてしまいました。そのあとは電源を切ってしまったようで、その後も何度か携帯に電話をかけたのですが着信拒否にされてしまったようです」

「そういう事だったんだな? でもさっきも言ったがうちにはいないんだ、悪いな」

「それはそうと今日はお義母さんがいないようですがどちらかにお出かけですか?」

「ちょっと野暮用でな」

「そうでしたか、突然伺ってすみません、今日の所は帰ります」

 実はこの時香織は紗弥加の入院する病院に見舞いに行っていた。