とりあえず、その後、美砂が神谷さんのマンションに来ることはなかった。
あんなふうに冷たく突き放されたら、ショックだよね…。
だけど…誰も傷つけずにうまく行く恋愛なんてないんだろうな…。
夏休み直前、学校で進路希望の調査票をもらった。
夜になって、お父さんお母さんと話をした。
「留里はどこの大学行きたいの?」
「…お父さんお母さんっ、あたしっ大学へは行かない。」
ガシャーンっ!
「…っ、まさかっ留里っ結婚するのかっ!」
お父さんが湯飲みを倒した。
「違うよっっ。」
あたしは、お母さんに向かって頭を下げてお願いした。
「高校卒業したらっ、あたしを、お母さんのお店で正式に働かせてくださいっ。」
「へ……っ?」
お母さんが、今度は変な声をだした…。
「あたしっ、お店手伝ってて思ったの。凄く楽しくて、こんなふうにあたしも店やりたいって。あたし、昔から雑貨やインテリア好きだし、いずれ自分のセンスで集めたものをお客さんに喜んでもらえたら幸せだなって…」
「留里…、神谷さんには話したの?」
「ううんっ、まだ…。」
「…あたしのほうは構わないけどね。でも、娘だからって甘やかすことはしないし、苦労も沢山あるわよ。まぁ、それでも、あたしも好きだからやってるんだけどねっ。まだ時間あるから、ゆっくり考えてから答えだしなさい。」
「留里は税理士は嫌かい?」
「お父さんっ、ごめんなさいっ。あたし理数系苦手だし…。」
あたしが税理士の試験受けても一生受からないよ…。

