「あきと!」
加藤は大雪だと言うのに手袋もせず、唇が震えて居た。
「加藤…」
「ゆずは!?」
「………」
「おいおいあきと、こんな時に嘘は良くないぞ」
加藤は震えた声であきとに言った。

「……ねぇよ」
「うそじゃねぇんだよ」
泣きながら歯を食いしばるあきとに加藤は頭が真っ白になった。

「ゆずは今どこにいるんだ」
「部屋だ」

あきとは急いで向かおうとした加藤の手を引っ張った。すごく冷たい。
「はなせよ」
「だめだ。今は家族との時間なんだ。お前はその後」
「………」
黙ってあきとの隣に座った。


「ゆずはいつ…」
「お前との電話を切った直後だよ」
「な、んで……」
「俺、ゆずの顔を見たんだ。ゆずは泣いていた。けど、笑ってたんだ」
「どういうこと?」

ガラッ

ゆずの家族がなぜか笑顔で部屋から出てきた。
「どうして笑っていられるんですか」
加藤は唐突に尋ねた。

「報告を受けてここに向かってる時は、何も考えられなくなっててね。病院に着いて、あきとくんに詳しく教えてもらってる時も涙が溢れて止まらなかったのよ。でも…ゆずの顔を見たらなんだかホッとしちゃったの。
あの子、幸せそうな笑顔をしてるんだもの。ゆずが笑っているのに私たちばっかり泣いてちゃ、ゆずの笑顔もなくなってしまうでしょ?」

ゆずの母親は優しく答えてくれた。

「加藤くんのことはゆずからよく聞いてるよ。加藤くんもゆずに会ってきてくれないか」

ゆずの父親はそう言って加藤の肩を軽く叩いた。


ガラッ
加藤は部屋に入った。