また彼女を苦しめることを知っているのに・・・・・手放したくない。

激情に身を任せて、黒い感情を抑えられなくなっていた自分に、これまでにない程の苛立ちを感じた。



「今は・・・・聞きたく・・・ない・・っ・・」



嗚咽の混じった声が聞こえた瞬間、俺の隣を横切って走っていった彼女。

驚いて、振り向くと、夕日に照らされた彼女の頬からきらりと光った粒が流れ落ちた。


・・・・・芽悠・・・・。


彼女の涙が、全てを物語っていた。


俺が彼女に付けた傷がどれほど深いものだったかも、俺のしたことがどれほど彼女を苦しめていたかも。



俺の中で不確かだったものが全て確かなものに変わっていく。

水の中でもがくように苦しくて、息が出来ないほどに締め付けられる心臓。