もう一度振り返り僕は声をかけた。

「…茜??」

君は一瞬ビクッとしてそぅっとこっちを向いた。

僕は驚いて言葉を失ってしまった。
君の眼はあの玄関で見せた眼よりさらに暗くなっていた。今例えるとするなら孤独と言うより絶望に近い眼だった。

「武内…君?」
君はその絶望仕切った眼で無理矢理笑顔を浮かべて僕を見た。
僕は我を失った…僕の中の君はそんな顔じゃない。君は茜なのか?それとも…。
訳も解らないうちに僕の頭の中はぐちゃぐちゃになってしまった。
そして、「うわぁぁぁ。やめてくれ。そんな…そんな訳無い!!」と言うと君の下から転びながら走って逃げてしまった。
公園の入口まで走るのに何回転んだのだろう。
全身が痛い…血も流れてる。怖くてしょうがなかった。
しかし、逆にその痛みが僕を冷静にさせた。
何故逃げたかもわからないまま走ったが…茜は僕に何を求めたのだろうか。そして次に正気に戻った時にはまた走り出していた。
逃げるために走ったのではない。茜、君を助けに行くためだ。
しかし、手は震え、足下も揺れていた。それでも僕は君の下へ向かった。
そして、再び辿り着いた時茜はいなかった。
僕はその場に崩れ落ちた。
涙が溢れて止まらなかった。
その時…背中に重みを感じた。
「やっぱり武内君優しいな。」
いつもの彼女が僕を後ろから抱きしめてくれていた。
驚いた…さっきはあんなに泣いてたのにいきなりこんなに変われるものなのか。
僕はその時初めて思った。茜の心の扉はさっきまでは開いていたんだ。
だけど僕の言葉で閉まってしまった。
余計涙が溢れてしまった。
茜は今度は前から抱きしめてくれた。
一度離れた時…茜は笑顔なのに涙を流していた。
これが最後のチャンスかもしれない。
僕の胸の中がざわついてるのに気付いた。
茜には聞き取れないくらいの声で、「ごめん…愛してる。」と言った。
そして僕は彼女の唇を無理矢理奪った…。

あとで殴られても何されてもよかった。
僕は今、もう一度だけ茜を好きな気持ちを伝えたかった。