桜の約束




ゆっくりと伸びをして、春らしい生暖かい空気を吸って吐きながら、足を一歩前に進めた。



足を進めるように、時間さえも進めることが出来ればいいのに。



医者が言うには、時間の流れが桜の記憶を戻してくれるかもしれない、ということ。


なら、約束の記憶も戻るかもしれない。



だから、今はただ、願うのだ。


桜の記憶が戻ることを。


そして、待つ。



桜との約束が戻ることを。



「いつまで待てばいいんだろうな」



そんな、答えの無い問いをこれから何度でも繰り返しながら、桜の下にいる。



「なぁ、十夜。俺、なんか間違えてるか?」



答えの無い問いは、何度しても答えが来ないから、答えの出る問いを、答える人のいる方に向かって聞いてみた。



「間違ってるか?
そんなの、オレにはわからないよ。いつか、桜が思い出した時にでも聞けばいいんじゃ無いのかなぁ?」



間延びした返事。


「まぁ、そうだな」



十夜の返事を、自分なりに解釈しながら、頷いた。



そうだな。それが正しい。



だから、答えが聞けるように。早く思い出してもらわないといけない。



「本当に、近いうちに桜に会いに行かないとな」