言ってしまったものは仕方ない。
「私が忘れた中に、大切なことがある。そう、誰かが言ってる気がするんです。だから、思い出さないといけない」
私が記憶を取り戻そうと思ったのは、落としたものが大きかった気がするから。
あの事故で、地面に赤く染みて行ったものはきっと、私の命を構成するもの。
でも、人間はきっと臓器や身体だけで構成されてはいない。
だから、あれは私の血であってそれと同時に全く違うもの。
ならば、私が落としたものは?
答えは簡単なはず。
私があの事故で失ったのは、記憶。
きっと大切な記憶。
誰かが言ってる、それはもしかしたら記憶の中の誰かかもしれないし、記憶のある私自身の言葉かもしれない。
それは分からないけど、私に関わる人あるいは私自身に記憶を取り戻すように言われてる。
『無理に、思い出す必要はないんじゃねぇの?』
記憶を失った私にも、野上くんは優しかった。
声も優しくて、言葉も優しい。
きっと、楽なのは思い出さないこと。
もしくは、自然に思い出すのを待つこと。
それを、野上くんは許可してくれた。


