桜の約束



しばらくして、バタバタと忙しない足音が聞こえてきた。



その足音がどんどん私の病室に近づいてきて、扉の前で止まった。



ガラガラとドアが音を立てて開くと、お母さんと柔和な顔立ちの白衣を着た男性、それからさっき病室を出て行った野上くんがいた。



「お母さん」



目に涙をためるお母さんは、私がその言葉を発すると安堵した様にボロボロと涙を零し始めた。



「桜!良かった!本当に良かった…目を覚ましたのね!
守くんが呼びに来てくれたんだけど、桜の様子が変だって聞いたの。
でも、大丈夫なようね」



その後ろで、野上くんは驚いた顔をして固まっていた。



「私が、変?」



野上くんは、私のことを変と言ったのだろうか。



「えぇ。なんでも、記憶喪失かもしれないって」



…記憶喪失?



「…桜、俺のこと…覚えてるか」



呟くように、押し出すように、ゆっくりと野上くんが聞いてくる。



分かり切ったことだけど、一応少し考えてそれから答えた。



「………さっき、目が覚めた時に病室にいて、野上 守って名乗った人よね…?」



「…他には?」



何故、そんなことを聞くのだろう。



わからないまま、答える。



「知らない」



お母さんが、息を飲んだ。



「先生、これは一体どういうことですか」



後ろを振り向き、説明を仰ぐ。



私には、何が何だか分からなかった。