「あ、母ちゃん!!クレープ食べたくなってこない?」
この遠回しの言い方…山科にそっくりなんだよな…。

この子と会うと、必ず思い知らされる…山科と私との子なんだと…。

「あんたが食べたいんでしょ~!!」
「え!!何でわかったの?スゲー母ちゃんスゴい!!」
スゲースゴいって…。子供は面白いこと言うよね…。

私は、希の分だけバナナクレープを買った。絶対飽きて残すだろうと思ったから!!

「あ、母ちゃん!!噴水だ!!スゲー!!超スゲー!!」
そう言いながら、噴水の方に走っていこうとして…私の目に見えるところで転んだ。

「もう…希…大じょ」
私が、駆け寄ろうと足を進めたとき…男の人が希に駆け寄った。

「お前、大丈夫か?怪我は?」
「うん゛…う、うぅ…。」
ヤバイ…この子は赤ちゃんの頃から泣くと建物が壊れるかと言うくらいうるさいんだ!!

私は、全速力で希に駆け寄って、抱き締めた。
「希!!」
「母ちゃん…ごめんね…クレーップ…クレッ…プー!!」
希の顔やら服やらにクレープのクリームがベットリ張り付いてしまっていた。
「大丈夫!!希が怪我なきゃ母ちゃんそれで良いから…だから、泣かないの。じゃなきゃ…母ちゃん泣くよ!!」

「あ、ダメ!!母ちゃん泣いちゃダメッ…ヒクッ、オレ…なッきやむ…からぁ…ヒクッ!!」
希は私を泣かせないようにと必死に頭を撫でてくれた。鼻水と涙でビッショリした手で…。母になると…色々気にならなくなるんだろうな…。

「…夏海?」
私の幸せな余韻は…その声でもろく崩れ去った。
私は、希を抱き締めたまま背中の方から聞こえる声を聞いた。

その声は…希の父親…山科だった。

「なぁ…そうだろ?」
「だったら?」
私は、低い声で答えた。

「何だ!!久しぶりだな!!」
まあ、おくめんもなく嬉しそうな声をあげられるものですね!!

私は、希を後ろに隠しながら振り向いた。
希のために、高校の時の何もしてない顔で…。←って言っても…多少の化粧はしてますよ!!

「…ところで、その子は?知り合いの子か?」
「…別に。あなたに関係ない…。行こ。」
私は、希の手を握って、引っ張ってこうとした…んだけど!!
「母ちゃん!!友達?友達なら仲良くしないとダメなんだよ?」

…終わった。

「母…ちゃん?お前が?」
山科は私を睨みながら聞いた。
私は、無言を貫いていた。

「そうだよ!!」
あんたが答えなくて良いのよ…希!!!!

「あ!こわい顔してる!!もしかして、母ちゃんの事怒るの?母ちゃんの事怒らないで!!母ちゃんはオレが守るんだ!!」

そう言って、希は私と山科の間に入って、両手を広げた。

「希!!やめなさい!!」
私は、希を後ろから抱き締めた。怒鳴るつもりだったのに…声が震えちゃった。

「やだ…オレ、オレ…母ちゃん泣かせないって決めてるんだ!!」
涙声で手を広げたまま途切れ途切れに言う希にふと…身を預けそうになった…。気を失いそうになった。

「希…。」
「母ちゃん!!オレと帰ろ!!クレープ…次で良い!!」
「…でも…」
「たまには…オレの言うこと聞いて!!」
まっすぐに私を見つめる希にすごく心強いなと感じながらも…私は、施設に帰ってきた。