【彼女のヒミツ】

礼二の財布の中身には約五万円入っている。

彼は常にこのくらいの金額を持っている。

母親に言えば十万円以内なら、理由も訊かず手渡してくれる。

それが仲間家の風習だ。礼二は甘やかされているとは、思ってはいない。

自分は両親に、絶大なる信頼を得ていると感じていた。

中尾は水着の専門店で足を止めた。

そして彼は彼女らに声を掛けた「さぁ、自由に好きなのを選んで。予算は五万以内だよん」

中尾の言葉を聞いた二人は、明らかに戸惑っていた。

「さっ、遠慮しちゃ駄目。れいじくんが喜んで君達の水着を買いたい、いや、買わせてくれって頼んでるのだからさ」

ささっ、と中尾は玲と里子の背中を押し、店内へと誘った。

そんなこと言ってねーよ、礼二は胸の中で愚痴った。

この場所に来るまでに、自分が支払わなければいけないのだろうと、薄々気づいていたが、さきほど中尾がその通りだ、と自信満々に答えられた時は、不覚にも笑ってしまった。

あまりにも中尾が堂々と、今日の君は財布だ、といわんとしていたからだ。

礼二は玲を見た。玲は嬉しそうに水着を物色している。

時折水着を手にとると、里子の体にあて、笑顔で親指を立てたりしていた。

自分は財布か。だがそれでも良いと思った。

玲の喜ぶ姿を側で見ることが出来るなら、金なんて惜しくない。どうせ親の金なんだから──

誰かが礼二の肩に手を回してきた。中尾だ。「玲ちゃん素敵だね」彼はいった。

「勉強三昧だと、人の心を見失っちゃうぞ。たまには息抜きしろっちゅうわけ」

中尾はそういうと礼二の肩を一つ叩き、離れた。

彼は玲と里子のところへ行き「おー、なにそれ、超かわいいんだけど、たまんない。ぶっふぇー」あほのように騒ぎはじめた。

人の心を見失う──礼二には中尾の言葉の意味が理解できなかった。






「仲間くん、今日はありがとうございます」玲が頭を下げ、礼をいう。そして微笑んだ。

「な、仲間、くん。ありがとう」たどたどしく礼を言うと、里子も頭を下げた。

「い、いや。喜んでもらえて嬉しいです」

礼二は玲の顔を見ていった。