甘かった..........
 今時珍しい舗装されていないガタガタ道を歩き始めてからだいぶ時間が経った。
 最初、元気よく口ずさんでいたトトロの主題歌もだんだん小さくスローダウンし、今じゃ息切れしか聞こえない。
 ナゼだ!どうしてなにも起こらない!
 いきなり別の場所に転移した小説の主人公は、不当な暴力にあう人を前にして突如魔法が使えるようになったり、カボチャパンツをはいた白馬の王子様が迎えに来てくれたり、戦いに巻き込まれてあなたは○○の血やら魂やらを受け継ぐ者なのですと告げられたりと実に様々な出来事が起こる。
 にもかかわらず、ハプニングのハの文字どころか、人っ子1人見当たらないとはどういうことだ!
 厄介事に巻き込まれず、ただひたすら歩き続ける主人公とは厄介だ。なにせ私が知る限り前例がないから対処法が分からない。
 「ストーリー性にかなり問題があるだろ..........」
 今更だが、この状況はかなりおかしい。
 私が穴に突き落とされたのは午後5時半頃。6月だから日が落ちるのは遅いが、それでも西にかなり傾いていたはず。なのに、目を覚ませば太陽は南中に位置していた。
 つまり私は、約半日ほど誰にも発見されず気絶していたことになる。
 そんなことってありうるのか?見回りの警備員さんにも管理責任者の人にも見つけてもらえないなんて。でもそうすると、なぜさっきからなにも起こらないのか納得がいく。
 ここの人達は、お客が来たことに気づいていないんだ。
  お客。つまり私のことだ。どうせあのDK三人衆のことだ、作業員には何も言っていないなのだろう。そんな奴らに運び込まれた私をお客といっていいのか微妙なところだが。