遡ること一時間前。
私と秋山君は、街をぶらぶらとしていた。
「寒いねー…」
「あ、あのお店入ろっか。」
優しげに引かれた腕に、ついていくと、その途中で、やじ馬が群がる一点の場所が目に入った。
慌ただしく動く人々の中。
そこだけがこの世界から切り離されているようで。
「…夏希。
ちょっと、気になるから待ってて。」
…なんとなく、嫌な予感がしたんだ。
多分それは、秋山君も同じで。
秋山君の"気になる"といった意味が、興味からきているものと違うと言うことくらい、声のトーンですぐにわかる。
だけど。
ゆっくりと離された手。
その瞬間、足が人混みの中に駆け出して行った。
「夏希!!」

