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セイジ
「しっかしお前もよくやるよなー。こうも飽きずに毎日毎日とさぁ……
ヒマなの? 仮にも受験生だろ? そんなことしててヨユーじゃん」


「まー、そこそこ余裕だよ。期末の結果も良かったし?
内申バッチリな上に面接も得意だからな、受かるよ? 俺は」

セイジ
「うわー、うぜぇぇー……」


「セイジ君は一般入試での合格を目指して頑張ってくれたまえ」

セイジ
「いや俺だって推薦も受けるし!
そこで受かるかもしんないだろ?!」


「まぁ、可能性がないわけでも無いけどさぁ……」

哀れみの目を向けながら、セイジの肩を叩いてやる。


「推薦でダメでも一般で受かればいいんだよ。
今んとこ合格圏内だろ?
入口が違っても中に入っちまえば同じじゃん」

セイジ
「どうせなら早く解放されてーじゃん、この受験地獄からさぁー……」

ダラけきった格好で壁に寄りかかって座っているセイジ。ふーっと息を吐きながら、ほぼ毎日の塾通いでかなりお疲れな様子だ。俺は窓辺に寄りかかって立ちながら、斜め下に視線を向けている。もうそろそろ恒例のものが見えてくるはずだった――


「……つーかさ、マジで七瀬さんの周りは面白いよ。
リアルにラブコメだし。ヒーロー役がビジュアル的に残念なことが多いけど……
でもたまに昼ドラみたいな事件も起こるし、見てて飽きない」

言外にお前も息抜きがてら見てみれば?と視線を投げつけてみる。

再び視線を戻した窓の外、裏庭へ続く花壇や植え込みの多い道を、見慣れた姿が進んで来る。今日の水やり当番のお供は2人。一昨日とは違う男達だった。一人は日焼けしたのか赤ら顔で小太りな男で、もう一人は小柄で黒縁メガネをかけた癖毛の激しい男。つまり、一般的に”地味”と呼ばれる類の男だ。


「しかしアイツらも馬鹿だよなぁ……真面目に攻める気あんのかね?」
(ダチと連れ立ってちゃ進展は見込めないだろ?)

俺にだってそれぐらいの事は分かるのに、恋に夢中になってる奴らはそんなことにも気付かないのか、あるいは気付いていても隣に居られるだけで良いとかなんとか思っちゃっているのか……恋は盲目というけれど、全てにおいて頭の回転が悪くなるのかもしれないな――
好きな人とは二人きりの時間を過ごしてなんぼだと思うのだが、彼女を独り占めできていないにも関わらず、相手にしてもらっているだけで幸せ……とでも言いたげな、嬉しそうな楽しそうな顔をしているのだから始末に負えない。


「…………(男って単純デスネ)」

セイジ
「……てゆーか、その野次馬根性どうかと思うけどな……。
見ようによってはストーカーだぞ、おまえ」

呆れ顔でセイジが呟く。


「全然ちげーよ!一緒にすんなっ。
むしろ社会勉強の一環だからコレ。
俺は勉強熱心なんだよっ」

セイジ
「まぁそーゆーことにしといてやるけど?
ミイラ取りがミイラにならないよう気をつけろよ~?」


へいへい、と馬鹿にした笑顔で余裕の返事をしておきながら、俺の内部は随分な割合で七瀬で埋まっていたと思う。


今思えば、その時すでにミイラになり始めていたのかもしれない――



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