今春の新入部員の数は、予想以上に多かった。しかし、内訳は男のみと偏りが激しく、その上なぜか1年よりも2年の入部が多かった。
まだ分からない、次こそきっと!!などと望みを託しているうちに、気が付けば部員のほとんど……というか真面目に活動している新メンバーの全員が男。見渡した教室内に点在するのは男の背中、背中、背中。
日ごとに男ばかりが増えていく――という現実に、新年度がスタートして3カ月目にようやく自覚したコンピューター部の部長は、ひそかな野望を打ち砕かれて、心の底からガッカリしていた。


「うん、期待した俺がバカだった……」

セイジ
「どーしたタカシ、頭が悪くなったか!さては成績さがったな!?」


「……なんでそう嬉しそうなんだよ」

セイジ
「いやいや、人の不幸は蜜の味……ってそんなことは考えてませんよ。
お前もちょっとは受験で苦しめや!……なーんて思ってないから安心しろ!」


「……おまえとゆーヤツのことがよーく分かった気がする」

セイジ
「いやいや、マジで。冗談だから」


「はいはい……(どっちだよ)」

セイジ
「……で?」


「なにが?」

セイジ
「馬のピクセルが鹿になったって話だろ〜?」


(ちげーよ)

斜め後ろの席に座っていたセイジが、椅子にだらしなく寄りかかってゆらゆらと揺らしながら話かけてくる。
俺はどう考えても望みの薄い「女子部員の増加」という今年の野望についてを語った。

セイジ
「流石にもう来ねーよ」


「だよな……俺もそう思う。
はぁ〜、中学最後の年も女子部員は七瀬さんだけか」

セイジ
「まぁ、一人でもいるだけマシじゃね?」


「そうだけどさぁ〜。でももうちょっと華が欲しいというかなんというか……」

セイジ
「ようするにー、タカシ君はあれだ。エロ目的で女子が増えてほしーとか思っちゃってたわけだ!」


「ち、ちがっ!そんなんじゃねーよ!!」

セイジ
「残念でしたー。可愛い女の子はうちみたいなマイナーな部には普通キョーミ持たないからね。
無駄な妄想はやめて、現実を受け止めましょう〜♪」


(うわ、むかつくっ)

セイジ
「ってか、七瀬さんはじゅうぶん目の保養になると思うけどなー。胸とか特に」


「だからっ、違うって言ってんだろー!」

思わず声が大きくなってしまったことに気づき、慌てて周囲を見渡すが、こちらを気にしている部員は一人もいないようだった。通い始めて久しい放課後のPC教室。みんな前の方の席に陣取っていて、俺とセイジのいる後方はガラ空きだ。
今年度からコンピューター部の部室は、そこそこ賑やかな部となりつつある。
そもそも、基本的にロンリーワークの部活で、席は有り余っているのに、何故あそこまでひしめく必要があるのだろうか。団体行動を好むのだろうか……


(単独作業なのに?理解に苦しむ……)

人数が増えたせいで雑談のBGMが煩わしいレベルとなり、静寂が失われたのは誤算だった。


(まぁ、そのお陰で変な会話に気付かれずに済んだわけだけど……)

ほんの数カ月前までは、俺とセイジとも七瀬さんの3人しかいなかった部だというのに……たった2カ月の間に、マイナー文化部としては大所帯の総勢12名になっていた。


(その内の11人が男って、、むさ苦しすぎる……)

こんなことなら部活動説明会で張り切らなきゃ良かったと後悔しても遅い。もはや宿命と諦めてはいるものの、せめてもの抵抗でこうして距離をとって座っているのだが……新入部員同士はもともと仲が良いメンバーなのか知らないが、とにかくいつも密集して座っているのが不思議でならない。密着していると言ってもいいくらいだ。
普通1カ月もすれば各々の定位置みたいな指定席みたいなものが決まってくるもんだと思うが……


(なぜか毎回シャッフルしてるみたいなんだよなー……)