ミユが用事を済ませて隆を待たせていた場所に戻ると、なにやら考え事をしているらしく、上の空の隆の姿があった。
「お待たせしました」と、ミユが声をかけると、じーっと顔を眺めたあとに、不思議そうな顔をする。

この人はやっぱり他の人とはなにか違う気がする――

ミユ
(どことなく違和感……意外性を含んでそうな感じ?
態度は無関心そうなのに、視線だけは正反対で、観察されているような心地悪さがあった。
もしかしたら、なにかとんでもない欠陥とか、常識にズレのある人かも……)

無遠慮にもミユはそんなことを考えていた。


この時、隆は自分と同じく部活残留組である凪の存在を思い出し、彼の不在に疑問を覚えていた。


(凪じゃなくても、部室には七瀬さんを送りたいと思ってる男が沢山いると思うけど……。
そんなヤツらを差し置いて、なんで俺なんだ? 七瀬さんは一体なにを考えてるんだろう……)

他の誘いは断ったのだろうか。だとしたらどうして自分には声をかけたのだろう?
当てにしていた生徒会の傘がなくて当初の計算が狂ったからとか?
そもそも俺の家の場所とか何で知ってんだ? 話したっけ?

――などという疑問が解消されないまま、それでも隆は不満を言うでもなく、ミユの後ろについて階下へと降りてゆくのだった。



「あれ? そういえば……七瀬さん、荷物は?」

ミユ
「あ、荷物は先に下に……」


「え? あ、そうなの?」

ミユ
「はい」

そう言って振り返り様にニコリと笑ったミユに、隆はそれ以上つっこむことが出来なくなる。
だが内心では疑問符がいくつも浮かびあがったままだった。

2年の下駄箱と背向かいにして隣り合っている3年の下駄箱に向かって、枝分かれするようにミユと離れて隆が向かうと、そこには待ち構えたような姿の凪がいた。



「あれ、凪?」


「よー。速水も今帰り?」


「おう。そっちは部活?おつかれー」


「そういや速水、今日は部活に来てなかったもんな。面談?」


「そうそう、面談ー。つっても親は来てないけどな。ってか凪は誰か待ってんの?」


「んなの決まってじゃん~、ミユちゃん待ってんの!」


「……あ、そう」
(やっぱそうだよな……この場合、俺はどう答えれば?)


内心で唸りながら、どうしたもんかと視線を彷徨わせる。
そこに上履きから革靴に履き替えたミユがひょっこりと現れて、凪のもとへと小走りで駆け寄りながら話しかけた。