フォールから逃れたものの、後頭部を強打してマット上に四つん這いになっている桜庭。

大谷はそんな彼の胴周りに両腕を回してクラッチし、相手の身体を反転させながら自らの頭上まで跳ね上げ、そこから自らしゃがみ込みながら相手を背面からマットに叩きつけようとする。

大谷の切り札、パワーボム!

桜庭を抱え上げ、マットに叩き付ければ、この技は完成する!

勝利を確信する大谷。

しかしそこがデビュー戦の新人の甘さ。

桜庭はその一瞬の隙を突き。

「!?」

大谷の片腕を両手で摑みつつ、三角形に組んだ両足の中に相手の首と腕を捕らえ足の力で絞め付ける事により、内腿で相手の片側の頚動脈を、相手自身の肩で反対の頚動脈を絞める!

三角絞めという格闘技の寝技で使用される絞め技の一種。

別名はトライアングルチョーク。

このまま両足で絞め上げる事で、頸動脈の血流を止め、失神させる事も可能な技だ。

桜庭は打撃や寝技、関節技を得意とする。

事前に藤原に教わっていたにもかかわらず、勝ちを急ぐあまり、その事を忘れてしまっていた。

拙い大谷のテクニックでは、この三角絞めを外す事は出来ず。

「っ…っっっっ…」

大谷は片手で桜庭の体を三回叩く。

タップ。

格闘技におけるギブアップの意思表示だ。