「大谷選手」

ニュージャパンのTシャツを着たスタッフが、控室にやって来た。

「時間です、入場準備をお願いします」

「……」

大谷は無言で立ち上がる。

遂にこの時がやって来た。

幼い頃、テレビで見たプロレス中継で興奮し、人間はこんなに強くなれるのかと憧れを抱いた。

いつか自分もこんな風になりたい。

観客に声援を送られながら、大技で敵をやっつけて、腰にチャンピオンベルトを巻いてみたい。

そんな幼少の日々から二十数年。

夢を現実にするチャンスが巡ってきた。

あの日夢見た幻想を現実に変える為に、大谷は敢えて過酷なプロレスラーの道を選んだのだ。