悔しい、悔しい、悔しいっ!
両拳を握り締めて、私は大股で歩くも結城君には丁度いい歩幅でしかないみたいだ。
「暑っー」とTシャツの襟をパタパタと仰ぎ、余裕で私の隣を歩いている。
結局、私が迷っているうちに結城君は早着替えを済ませて「じゃ、行こっか」と出てきてしまった。
結城君の今日の出で立ちは中心に英字が書かれた白いTシャツに、カーキのパンツと黒のスニーカー。
暑さ対策かキャップを被っている。
今日はコンタクトなのか、トレードマークのセルフレームの眼鏡をかけていないから、すれ違っても結城君だと気付けないかもしれない。
「先生も、もう少し変装すれば?」
ああ、それは一応変装だったのか、と納得した。
結城君もそれなりに理解して、教師と生徒の建前を守ってるつもりらしい。
そう思ったすぐ後に、結城君が勝手に着いて来たくせに、何故忠告されなければならないのか、と納得した数秒前の自分を戒めたくなった。
「それ着れば誰も先生ってわからないんじゃない?」
「イベント会場以外でコスプレするのはマナー違反なの!!」
食ってかかると、結城君はクスクスと笑って「そーなんだ」と視線を前に戻す。
冷静になれ。冷静に。
ムキになっても結城君を喜ばせるだけなんだから。
深呼吸を一つして、結城君を撒く作戦を考えることに集中した。

