でも、その甲斐虚しく、オレンジ色の服は隣人によって拾い上げられてしまった。
「あ・・・、すみません。洗濯物がそちらに・・・」
教師の芹沢雅を意識しながら、よそ行きの声色でおずおずと隣のベランダを覗き込み、固まった。
「え・・・?結城君?」
「芹沢先生・・・?」
私の双眼が捕えているのは結城君で間違い無いのに、頭の中ではそれを必死に否定しようとしている自分がいる。
オレンジ色の服を持っていた隣人が結城君だったことにも混乱しているけれど、それよりも結城君が咥えている煙が出ている白い棒。
「ちょっ・・・、それ、煙草でしょ?」
結城君は整った眉をひそめて、視線を逸らした。
「未成年でしょ?そんなの、やめなさい」
「学校外くらい、勘弁してよ」
結城君の煩わしそうな回答に唖然としていると、結城君は口元に笑みを浮かべてベランダの端に腕をかけて上半身の体重をかけた。
「学校外とか関係ないの。未成年の煙草を注意するのは大人として当然よ」
「絵に描いたような模範解答ですねぇ」
人を小馬鹿にしたように笑みを浮かべながら、口から煙を吐くのを辞めない。

