結城君は腕時計を確認し、少し思案してから再び私と伊丹先生を交互に見つめた。
「ラストまでには行って帰って来られる時間です。僕が行くので、幕は時間になったら開けてください」
「私も行きます。部室の配置なら頭に入ってるし、衣装もわかります」
「わかりました。芹沢先生も同行してください。香苗」
結城君に呼ばれて、今までおどおどしていた柏木さんが慌てて前に出て来た。
「は、はいっ」
「香苗は裏方に回って、フォローして」
「わかった」
的確に指示を行き渡らせると、結城君は一歩踏み出して伊丹先生を前にした。
「台本、1度も読んでらっしゃらないなら、観客席でご覧になっていた方がよろしいんじゃないですか?」
つまりは、ここにいる資格は無い、と伝えたのだ。
それを理解した伊丹先生は、呪いでもかけそうな顔で結城君を睨みつけたけど、結城君は動じず「芹沢先生、行きましょう」と促した。

