擬態化同盟 ~教師と生徒の秘密事~



教室に向かう途中、「雅ちゃーん!」と後ろから慌ただしい足音が近づいて来た。

振り返って反射的に注意をしたけど、柏木さんの耳には届かなかったのか、整えられた眉尻を下げながら私の顔色を窺っていた。

「倒れたって聞いたけど」

「もう平気だよ」

「ごめんね。雅ちゃんも忙しいのに、私がお願いしたばっかりに」

「また、雅ちゃんって呼ぶ」

「だって、雅ちゃんの方が可愛いもん」

「可愛くてもダメ」

柏木さんは「えーっ」と不満を大げさに吐き出して、口を尖らせながら可愛らしく拗ねていた。

「私ね、雅先生に渡したいものがあって」

そう言いながら、シャツの胸ポケットを探って「はいっ!」と拳を突き出した。

「なーに?」

「私の大好きな飴。甘くて美味しいから元気出ると思うよ」

くしゃっと屈託無い笑顔に癒されて、掌を差し出すと、その上に両端を捻じった水玉模様の包装紙がコロン、と転がった。

「ありがとう、柏木さん」

「うんっ。私にできることがあったら、何でも言ってね!」

柏木さんは「じゃあねー」と大きく手を振りながら、去って行った。

いい子だなぁ。

ほっこりとした気持ちで掌に乗った飴を見つめ、こっそりとポケットにしまい込んだ。