出勤して、今日の授業の準備に取り掛かっていると、演劇部顧問の伊丹先生が黒のロングスカートを揺らしながら職員室に入って来た。
「おはようございます」
「おはようございます」
これまで、伊丹先生と挨拶以外の会話をほとんどしたことが無かった。
担当は美術で、美術部も兼任しているという。
教えている学年も違ったし机も離れていたから接点が生まれなかった。
「演劇部の衣装係を担当させてもらうことになりました」
「ええ、聞いてるわ」
今まで関わり合いが少なかったのは、そういう機会が無かったことに加えて、何となく近寄り難い雰囲気を伊丹先生から感じ取っていたからだ。
長い黒髪をいつも後ろで縛り、脛まで隠れるような黒っぽいロングスカートを常に履いていた。
ぼそぼそと呟くように喋るのが特徴的で、伊丹先生に対して陰気な印象を持っていたせいもあった。
「未熟ですけど、演劇部の為に精一杯頑張らせて頂きます」
「ああ・・・、そういう熱いのは苦手だわ」
煩わしそうに眉をしかめながら、顔の前で手を払う素振りを見せた。

