「返事、聞かせてくれるのかな、って期待して来たんだけど」

私は頷いた。

「何だか、俺の望んでる答えじゃないように思えるな」

隠しきれない表情の様子で伝わってしまったのだろう。

私は勢い良く頭を下げた。

「すみません。すごく、嬉しかったんですけど、佐久間さんとは付き合えません」

一気に言い、そのまま頭を下げていると、佐久間さんは息を長く吐いた。

「少しは脈があるかな、って思ってたんだけど残念だな」

顔上げてよ、と言われて私はゆっくりと顔を上げる。

「好きな人でもいるの?」

「好きなのか、わからないんですけど、その人の事を考えてばかりいるんです」

「好きかはっきりしないなら、ひとまず俺と付き合っちゃえばいいのに」

わざと軽い口調で佐久間さんは笑顔で頬杖をつくけれど、私は首を振る。

「そういう中途半端なことはしたくないんです」

佐久間さんにはきっと私は偽り続けなくてはならない。

それはとても辛い事のように思えた。

それに、別の人の事を考えている自分を意識しているのに、忘れるために佐久間さんを利用したくないと思った。

何かに頼るのではなく、ちゃんと自分の力で乗り越えなくてはならない。

「そっか。芹沢がもっとあざとかったら俺にもチャンスあったのになぁ」

もう一度、すみません、と謝ると佐久間さんはそれを止める。

「もう謝るのなし。ただ、ちょっとだけ飲むのは付き合ってな?」

私が頷くと、佐久間さんはお酒のメニューを開いた。



交わることなんて無い、恋。

それでも、気づいてしまったから、佐久間さんと付き合うことはできない。

この気持ちは溢れてしまわないように、箱の中に閉じ込めて、心の奥底にしまい込むんだ。