「この方程式を使って、解を求めるとーー」
チョークが黒板を叩く、小気味良いリズム。
式を書いている間、その定期的な音が私の気持ちを安らがせる。
「先生」
声を聞いただけで、誰が呼ぶのか、わかる。
それ程、「先生」という言葉がその声で発せられたから。
「何でしょうか、結城君」
こんなことで、心を乱してどうする。
自分は先生、先生、と言い聞かせながら笑顔を貼り付けて振り返った。
「その答え、違ってます」
「・・・」
改めて自分の書いた式を眺めると、確かに一箇所計算ミスを犯している。
それも、簡単な足し算・・・。
「ごめんなさい。ここは、こうね」
慌てて黒板消しでミス部分を消して書き直す。
「指摘してくれて、ありがとう」
「いいえ。先生もいろいろと大変でしょうから」
くっ・・・、見破られている。
情けない。
授業に集中出来ないなんて、情けない。
私情を挟んだりできないように、またすぐにチョークが鳴らすリズムを響かせた。
落ち着け、落ち着け。
そう、言い聞かせて。

