「おやすみ!」
「ガラス、割るよ」
「・・・」
部屋に入ろうと踵を返すと、背中で聞こえた聞き捨てならない言葉。
睨みながらゆっくりと振り向いた。
「また、デートの相手なの?」
「そんなんじゃないよ」
「だって、グロスつけてるじゃん」
「普段からつけてるよ」
「下手な嘘」
小さく笑う。
また、馬鹿にして・・・。
どうせ、結城君には嘘なんて通じないんだ。
それなら、
「前に話したでしょ。中学の先輩の話」
「うん」
「その人と会ってた。付き合おうって言われた」
「嬉し泣きには見えないけど」
「コスプレはイタイし引くんだって」
「それ、暴露したの?」
「店にそういう人達が入って来て、それを見て言ってただけ。でもそれって、そのまま私の事だもの」
泣いてるんだか、笑ってるんだか、よくわからなくなってきた。
ああ、情けないな。
生徒の前だっていうのに。
拭っても、拭っても止まらない。
何でこんな時ばっかり、茶化してくれないのかな。
いつもみたいに、馬鹿だねって鼻で笑えばいいじゃない。
そうしたら、私はいつもみたいに怒るから。
そうしたら、その時ばかりはこんな気持ちも和らぐだろうから。
「やっぱり、受け入れられないもんだよねぇ」
「先生・・・」
「はは・・・、結城君は私のこんな情けない姿見ても、先生って言ってくれるんだね」
「先生。そっち・・・、行っていい?」
「え・・・?」

