頭の中にある解答用紙と照らし合わせながら端的に赤丸を付けていく。
生徒の半分の採点を終え、次のプリントに赤ペンを置いた。
結城肇。
文字は書く人の性格を表すというけれど、手本のように生真面目な細い文字は、本性を知った後に眺めると違和感を感じずにはいられなかった。
無意識の行動ですら抑制できる、完璧主義といったところなのか、はたまた昨夜や今朝見た結城君自体が偽りの姿だったのかわからなくなる。
結城君の名前の横に満点を表す10を大きく書き入れる。
9問は授業で使った数式をそのまま当てはめれば簡単に解が出るものだけど、最後の問題は応用で、2つの数式を組み合わせて求めなければならない。
書き直した痕跡も無い結城君の綺麗なプリント用紙を見て、改めて結城君の柔軟な思考力を思い知らされた。
私が結城君の悪事について誰かに話したところで取り合ってもらえないだろうな、と思わせるだけの威力が結城君の雰囲気から放たれていた。
それだけ、結城君が周りから得ている信頼は厚い。
それどころか、結城君の頭を持ってしてみれば、私の考えを見抜くことなど容易なのかもしれない。
教師と生徒にはある程度の距離感が必要だと言っておきながら、なんて厄介な生徒に近付いてしまったんだろう、と肩を落とした。

