「学校では、付けて来ないんだ?」
「何?」
「グロス」
何の前触れも無く、方向転換された話。
気構えできていなかったからか、結城君に口元を拭われたことを思い出して顔が熱くなる。
あんなこと不意打ちで何気なくやっておいて、何事も無かったかのように振る舞う。
私をからかっては嘲笑い、翻弄しておいては放置にする。
結城君の言動にいちいち反応したくないのに。
「俺の忠告を聞いたとは思えないけど」
「学校は遊ぶところじゃないからね」
「相変わらずだなぁ。・・・あ、あった」
結城君は大きな茶色い丸い物体を小脇に抱えた。
その物体をくるり、と回転させると、つぶらな瞳をした愛くるしいクマと目が合う。
結城君はそのクマの頭を何も言わずに私に被せた。
「えっと・・・、・・・何で、クマ?」
「クマ嫌い?」
「いや、そうじゃなくて」
「じゃあ、メイドとかナースの方が本当は良かったとか?」
「それも違くて」
強引に連れて来られて、いろんなコスプレ衣装がある中からクマの着ぐるみを当てがわれるって、何なんだ。
何がしたいの?君は。
結城君って、何を考えているのかわからないとは思ったけど、ここまで突拍子も無いと、意図を探る気すら失せる。
「付き合ってほしいことってこれなの?クマ着せて何させようって言うの?」
客寄せパンダならぬ、客寄せクマにでも仕立てるつもりか?
それとも、またからかわれてる?

